《MUMEI》

ギリギリ、ギリギリと、


時空が軋み、歪んで、

わたしの目の前に、真っ白な穴がぽっかりと大きく口をあける…。

わたしは、その白に飲み込まれ、

それと同時に、

紅蓮の炎も、
漆黒の闇も、


周りの風景全てが、一気に色を無くした−−−。



******


しばらくの沈黙の後−−−。


不意に、帰蝶は在らぬ方を見上げ、じっと耳を澄ませていたかと思うと、
その赤い唇を、微かに動かした。


「『時間』です…」


そうして、彼女は信長を見つめ返し、柔らかく微笑む。

「これより、ここへ、『濃』が戻ります…彼女はさぞかし気が動転していることでしょう。どうか気持ちが落ち着くよう、上手く取り計らって差し上げて下さい」

そう言い切ると、信長は帰蝶の顔を見つめたまま、「相分かった…」と静かに答えた。
帰蝶は満足げに微笑み、ゆっくり瞼を閉じる。

最後に、彼女は、小さく呟いた。


「また、お会い出来る時まで…」


次の瞬間、

彼女はフッと意識を無くし、パタリと床の上に突っ伏した。

長い黒髪が舞い踊る様を、信長は、身じろぐこともせず、ただ静かに見守っていた。



******

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