《MUMEI》

「あら、本当? 嬉しいわぁ。あそこ、わたしの姉がやっているのよ」

「ええ、姉妹揃って美人ですね」

「まあお上手ね。ヒミカちゃんにゾッコンなのに」

「えっ!?」

カガミさんはアタシを見て、クスクス笑った。

「『大事な女性の為に、美味しい料理を作りたい』って言ってきたのよ。ほら、わたし宣伝を担当しているでしょう? だから料理教室にも詳しいんじゃないかって、尋ねて来たのよ」

もしかして容疑者5人全員にバレるのか!?

思わずフラッ…とするも、二人はニコニコと話を続ける。

「ちょっと待ってね。…ああ、あった」

机の上のファイルから、チラシを取り出し、アタシに差し出してきた。

「あっ、どうもです」

「何ならわたしから、姉に話しておきましょうか? 今実家に帰っているから、すぐにでも話できるわよ?」

「大丈夫ですよ。こちらで全て済ませますから。それよりカガミさんは、お体を大事になさってください。お子さん、今が大事な時でしょう?」

「もう安定期に入ったから平気よ。あっ、ちなみに場所はここからバスで5つ先に教室があってね。実家でやっているの。気が向いたら、いつでもどうぞ」

「ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」

「しっ失礼します」

カガミさんに頭を下げて、アタシとキシはフロアに出た。

「…こう言っちゃなんだけど、カガミさんだけは容疑者だとは思えないわ」

「そうですね。まあ妊婦ですけど」

そう言うキシは、どこか冷めている。

「…何か冷たい反応ね。カガミさん、良い人じゃない」

「別に彼女が嫌いなワケではないですよ。どうでもいいだけです」

……あっさりとんでもない言葉を返しやがった。

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