《MUMEI》

「何だ? レシピでも欲しくなったか?」

「ええ、ヒミカの為に、いろいろ研究中でして」

またか!

「おおっ、ついに付き合いはじめたか!」

ついに!?

「はい。ヤスヒロ先生のおかげでもあります」

「俺の料理が役に立って良かった! 仲良くしろよ」

先生はそう言って、アタシとキシの頭を力強く撫でた。

「もちろんですよ」

「そっかそっか。それじゃあレシピだが、後でまとめて渡す。今はちょっと手が離せないからな」

「次の授業までで構いません。それじゃあ、よろしくお願いします」

キシと二人で頭を下げて、階段の所へ行った。

「…ついに? ついにって、何?」

「いやぁ、ヤスヒロ先生は話しやすい人ですからね。ついウッカリ」

「確信犯だろう! お前!」

「まあ否定はしません。けどワリと情報は集められましたね」

キシは真面目な顔になり、壁に寄り掛かった。

「ヤスヒロ先生のレシピは、言わば知る者が知るってカンジですね。そして先生はここから地下鉄で2駅先のマンションに住んでいるんですけど、住居用の部屋とは別に、隣の部屋を料理教室用として借りているんですよ」

「ふぅん。まあ先生にとっちゃ、通勤時間が無いも同然で楽じゃない」

「ええ、そうですね。教室が終わった後、先生の部屋に集まって、飲み会をすることもありましたから」

「いいなぁ。今度連れてってよ」

「喜んで。でも二人だけってのも、良いですよ」

「それは後でにしてね」

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