《MUMEI》

濃が落ち着いたのがわかり、信長は心無しか安堵したような表情を浮かべ、ため息をつく。

「…ここは那古野だ。お前の部屋だ」

「見てみろ」と、落ち着いた声で呟くと、彼は彼女の身体を解放し、床の上で胡座をかいた。
濃はゆっくりと身体を起こし、それから恐る恐る周りを見回す。

読み書きをする机。中央に置かれた几帳…。
どれをとっても、見慣れた自分の部屋であった。

「…どうして?」

濃は呆然と呟いた。

間違いなく、さっきまで自分は見知らぬ山にいた。そこから、麓でなにかが燃える様を見つめていたのに。

ぼんやりと黙り込んだ彼女を見て、信長はまたため息をついた。

「寝ぼけるのも大概にしろ。夢と現実の区別もつかぬか」

「面倒で敵わん」と、厭味っぽく吐き捨てると、彼はそこでゴロリと横になった。

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