《MUMEI》 . …夢? 信長が立ち去った後、突如として睡魔が襲い、眠り込んでしまったのは事実だろう。 けれど、濃は覚えている。 吹きすさぶ風の冷たさ。木の葉がざわめく音。大地を駆け降りた感触。なにかが燃える臭い…。 五感でその『どこか』の空気を感じ、身体中に刻み込んでいた。 信じられない気持ちでいっぱいになりながら、濃は自分の両手に視線を落とす。 そして、驚愕した。 自分の打掛の裾や足元が、泥で汚れていた。 …いいえ。 夢などでは、ない。 あれは、現実。 確かにわたしは、どこかにいた。 確信した濃は顔をあげ、信長を見た。 彼はもう妻に興味を無くしたのか、こちらに背を向け、見ようとすらしない。 前へ |次へ |
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