《MUMEI》
『蝮』の娘
.


一方、古渡城では−−−。


大広間に、尾張当主・織田 信秀とその息子・勘十郎信行が向かい合って座していた。

信秀は、息子である勘十郎の賢しげな顔つきを眺めながら、ため息をついた。

「今仕方、権六の遣いより、上総介の言伝を聞いたのだが…」

おもむろに話し始めた父親に、信行は、「はい…」と返事をして、居住まいをただした。
『上総介』というのは、自身の兄・信長のこと。
今日は、父である信秀より、建設中である末森まで来るよう、兄共々申し付けられていたのだが、約束の時間になっても信長が姿を現さなかったので、先に、父親と共にこの古渡城へとやって来ていた。

信秀はなにかを諦めたように虚空を見つめ、小さく呟く。

「忙しい身故、用があるなら那古野まで来い、とな」

信行は眉をひそめ、「はぁ…」と曖昧に頷いた。信秀は自嘲気味に笑う。

「青二才が…このわしに向かって、偉そうにそう抜かしおったのだ」

「たいしたタマよ」、と喉を鳴らす。

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