《MUMEI》
国の行く末と憤り
.

思い当たる節は、たったひとつ。



…これは、美濃の『蝮』の陰謀だ。



かねてより、美濃国当主・斎藤 道三は相当な策士と聞いている。

おおかた己の娘の美貌を利用して、次期尾張当主である信長が家督を継いだ後、まるごとこの国を手に入れようと画策しているに違いない。

信長は道三の策略にすっかりはまって、今となっては美濃御前の傍を、片時も離れようとしない始末。

弟の信行にとって、こんなにも嘆かわしいことは、他に無かった。

行く末が思いやられて、信行はひとり、深いため息をついた。
なにかふさぎ込んでいる息子を見て、信秀はゆったりと言葉を紡ぐ。

「上総介は元服も果たし、今は那古野城主として…ゆくゆくはこのわしの後継ぎとして、尾張を任せるつもりだ」

物静かな呟きを耳にしながら、信行は真剣な眼差しを父親へ向ける。

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