《MUMEI》

まっすぐで揺らぎのない信行の瞳を見つめ返しながら、信秀は、寂しそうに続けた。

「『尾張の虎』と諸国大名に恐れられたわしも、老いには勝てぬ…早々と隠居して、この国を見守りたい気持ちもあるのだが…」

そこまで言って、ため息をついた。

信行は落ち込んでいる父親を眺め、ゆるりと瞬く。

「…『尾張のうつけ』と嘲笑される兄上に、この国を任せることを、気に病んでおいでですか?」

包み隠さず思った通りのことを口にした信行に、信秀は「たわけ!」と怒鳴りつけ、ジロリと一瞥を与えた。

「あれは才知もあり、度胸もある…あれ程の男は、国中探してみてもふたりとおらぬ」

低い声音に、信行は顔を引き締めた。
父親の厳しい顔つきを見て、背筋を凍らせる。

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