《MUMEI》

信秀はまたため息をつき、「だが…」と呟く。

「あれの妻…美濃御前は『蝮』の愛娘。両国で和睦を結んだといえど、大切な娘を人質にしたまま引き下がる程、『蝮』は愚かではない」

話しながら、信秀は遠い目をした。

「しかも『蝮』の嫡男は、あの有名な武将・新九郎義龍…『蝮』と共に攻め入られれば、我が国はひとたまりもない…それをあの上総介が心得ているのか、いないのか、さっぱり分からぬ」

信行は、年老いた父親の深いため息を聞き、この国の未来を気に病んでいるのは自分だけではないのだと安堵したのと同時に、

気ままな振る舞いを続ける兄・信長に対する、言いようのない憤りを感じていた。



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