《MUMEI》
夏希
女優としてメジャーデビューしてから、一年が経った冨田夏希。彼女は、初の写真集を出版した。
ドラマ、CMなどで大活躍の夏希は、たちまち売れっ子女優の仲間入りを果たし、多くのバラエティ番組にもゲストとして出演していた。
美少女の面影が残る21歳の夏希。スタジオでは控えめで、あまり出しゃばって話すほうではない。
ところが、ひとたび芝居となると演技は体当たりで、そのギャップがファンの心をくすぐる。
彼女はデビューする前から格闘技をやっていたから、アクションもお手のもの。さらに強みとなるのは、きわどいシーンもOKなことだ。
水着やバスタオル一枚は当たり前。下着姿で拷問されるシーンなどもこなすから、ファンはエキサイトして虜にされてしまう。
初の写真集の売れ行きも好調。そんな夏希だから中身も期待感が高まる。
もちろん期待に応えた内容で、アイドルに許されるギリギリの線を行く。
写真集は、あちこちの広告で宣伝され、書店でもレジ近くのベストポジションに平積みの好待遇。
皆、次々と本を手に取ってレジに行った。
(あっ、あった。これだこれ)
司智文も、書店で夏希の写真集を手にした。
表紙からいきなりセクシーな水着姿で魅了する夏希。夏らしく刺激的な内容に仕上がっているという評判だ。
彼は真っすぐレジへ行き、一冊購入した。
「ふう」
8月は何をしなくても汗が滲む。真夏でもスーツを着なければいけない会社はきつい。司智文は、たまらず上着を取って腕にかけると、鞄に大事そうに写真集を入れた。

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