《MUMEI》
「よっし!」
休み時間に入るが早いか、飛太はバッと立ち上がり、友達のところに駆け寄って挨拶を交わす。
そのあまりの早さに、呆れた顔をしていた少女にクラスメートの女子が話しかける。
「飛太くんて、いっつもあんな調子だよねー、奈緒も苦労するねー」
「まっったくよ!」
笑いながら話すクラスメートに、しかめっ面をしながら奈緒と呼ばれた少女は答えた。
この少女、名前を近藤 奈緒(こんどう なお)、という。
ここ、柊高等学校の2年1組の生徒だ。
成績・素行ともに優秀であり、生徒会の書記も勤めている。
真面目で合理的、なによりもTPOに応じた気配りができる。
その年齢らしからぬ大人びた、完成された人格からか、教師やクラスメートたちからの信頼も厚い。
まさしく完璧な、模範的生徒。
そんな奈緒の頭痛の種が、彼女の幼馴染み、曽根 飛太(そね ひいた)だ。
奈緒とは対照的に衝動的、かつ好奇心旺盛にしてイタズラ好き。
面白いことにはとことんのめりこむものの、つまらないと思ったことに関しては、絶対にやろうとしない。
たとえ、それが必要なことであってもだ。
運動は得意だが、机に座っての勉強は苦手と、まるで小さな子供のような性格である。
その性格がもとで、トラブルメイカーにもなるが、不思議と憎まれない。
そんな不思議な人徳を持った少年。
「ほんっと、受験も来年に控えてるっていうのに、なんであんなに脳天気なのかしら」
「だねー、進路どうするんだろねー」
「だいたい……」
「あ、そういえばさ」
飛太に対する不満を続けようとした奈緒に、クラスメートは不意に質問を投げ掛けた。
「奈緒ってさ、進路どうすんの?」
「どうするって……」
「決めてないとか?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
「んじゃ、なに? あたしも迷ってんだ。参考に聞かせてくれない?」
「いいわよ」
そこで一端、間を置き、原稿を読み上げるように語り出す奈緒。
「まずは一流どころの大学に入り、4年で卒業。それと平行して第一種国家公務員試験を受験するの。在学中に受かればしめたものだけど、それは可能性程度ね。合格してキャリアになってからは……」
「ちょい待ち!」
クラスメートが奈緒の将来設計の説明を途中で遮った。
中断されていい気分はしない奈緒は、素直に不機嫌な顔をする。
「何よ? まだ終わってないんだけど?」
「いやさ、あんまり夢のない理詰めの話だからさ……」
「……将来の夢も現実のうちよ。叶えたければ、ちゃんと計画を……」
極めて合理的な答えを言う奈緒は、唐突に足下に違和感を感じた。
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