《MUMEI》

駅前のファーストフード店に着くと、綾音が待っていた。

「どうしたの?」

「あ、ごめん急がせちゃった?」

綾音が申し訳なさそうな顔で聞いてくる。
どうやらすごい形相をしていたようだ。

「あのね、大したことじゃないの。シンデレラの衣装の布どうしようかなーって思って」

その言葉を聞いて私は納得した。
そういえば、綾音はシンデレラの衣装担当だった。

「で、やっぱ本人に聞くのが一番かなーって。ほら、怜『夏休み暇ー』とかなんとか言ってたからさー」

「絶対家にいるだろう…ってこと?」

「そういうこと」

「うわ、ひどっ」

綾音は可愛らしい笑顔で笑った。

「でもさ、私怜のメアド知らなくてびっくりしたの」

「あー確かに」

私は言われてはじめて気づいた。


だから家電だったのか…


私は綾音とメアドを交換し終えると、綾音と一緒に買出しに出ることになった。
といっても綾音の案が素晴らしすぎて、私のいる意味は全く持ってなかったが。

帰り際、綾音がふとこんなことを尋ねてきた。

「優子ってさー、何か不思議じゃない?」

その問いを聞いて、私は思い切りふき出した。

「た、確かに…てか不思議どころか怪しいよねー。なんか妙にハイテンションな時とかあるし」

「いや、そうじゃなくて」

綾音は真剣な口調で言った。

「……?」

「なんか…優子って、本当の自分のこと隠してる気がするの…。なんか腹黒さを持ってるというか…。とりあえず、怜はいつも一緒にいるから特に気をつけたほうがいいと思う」

綾音はそう言うと、急いで家に帰っていった。

私は優子が以前綾音に気をつけてと言っていたことを思い出した。


まったくお互いのことが嫌いなんだから…モテ子同士お互い嫉妬してんのかなー


などと私は軽く受け止めた。
だが、優子が腹黒ではないにしろ、自分を隠しているという点については、賛成だった。
美術館のお昼のことが鮮やかに思い出される。あの時の、優子の表情が忘れられなかった。


優子は今何を思っているんだろうか…


そう思ってはみるが、気が重くなるので考えないようにすることにした。

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