《MUMEI》
1 ソウグウ
 「こんな処で何している?小僧」
真夜中、眠る事を知らない大都市の繁華街の片隅
仕事からの帰宅途中だった畑中 和志は
まるで何かから隠れる様に、路地裏にあるゴミバケツの影に座り込んでいるその姿を見つけた
畑中の声に僅かに顔を上げてくる相手は見るに随分とやつれている様に見えて、表情も乏しいものだった
問うた事に対する返答すらしない相手に、畑中は溜息をつく
「……念の為確認するけど、お前、男か?」
ついそう問うてしまったのは
どう見ても女にしか見えない外見に対し、真っ平らな胸
其処に着目点を置く事自体、相手に対し礼を失する事なのだろうが
畑中はだが気に掛ける事はせず、その相手からの返答を待った
「……俺が女に見えるってんなら、テメェの眼、腐ってんだよ。馬ー鹿!」
外見の可愛らしさに反した粗雑な言葉
踵を返し、走り去っていくその背を
畑中は唯眺め見るしか出来ず、また溜息をつく
「可愛くねぇガキだな」
だが、途中
何を思ったのか畑中はその相手の腕を徐に掴み上げ、その脚を止めていた
「……離せよ」
睨みつけてくるその表情
だが畑中は躊躇する事も、手を放してやる事もせず
睨みつけてくるその様に、何故か畑中で中の何かが切れた様な感じがした
掴んでいるその手首を更に強く掴み上げながら
「……もう少し口の利き方に気をつけたらどうだ?」
低く凄んでみるが相手は全く怯む気配も無く
尚も畑中を睨みつけていた
「……絶対に、許さねぇからな」
「は?」
「覚えとけ!オカマ野郎!」
捨て台詞を畑中へと吐き捨てて
手を振り払い、相手はその場を走り去っていった
罵声を戴かなければならない理由が畑中にはいま一つ理解出来ず
髪を何となく書いて乱しながら、その背を眺めるしか出来なかった……

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