《MUMEI》
▽





「大丈夫か？」

「ダメ…」


ホテルの扉が開くなりそんな事を言われ、俺は崩れる様に隆志の胸に入りこんだ。

引きずる様に部屋の中に入れられ、ぐだぐだにへたり込んだ俺を、隆志は包む様に抱きしめた。



病院から気丈にここまで歩いて来れたのに、やっぱり隆志に会った途端力が抜けた。


もう箸さえ握れないかもしれない。

でも、例え握れなくても隆志が支えてくれているから、大丈夫。



隆志がいるから大丈夫…。


「あー、潮君、朝8時に顔出すから、惇の事頼んだよ」

「はい、わかりました」



そして平山さんはおやすみと言い、



がちゃりと扉が閉まった。



▽



「隆志ありがとう」
「うん、…」


「隆志が居てくれたから俺、…兄貴を最後まで送りだせた」


告別式でグスグズになりながらも、隆志の視線はずっと感じていた。


だから余計、遠慮なくグスグズになれた。

何も我慢しなくていーんだって、いざとなったら隆志が支えてくれるんだって思ったらもう怖いものは何もなかった。



俺の頭を愛しげに撫でる隆志。広いこの胸は俺だけのもの。


「誰にも隆志はあげない…」

「……うん、俺は惇だけのモノだよ」




好き……




愛してる…





兄貴、俺は幸せだから。俺はもう大丈夫だから。





だから






だから











兄貴を見守って



兄貴だけを…












兄貴が笑える様になるまで













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