《MUMEI》

そんな男の視線を無視してユウゴポケットから携帯電話を取り出した。
「これの暗証番号教えてくれる?」
男はユウゴが持っているものが自分のだと気づくと何か言おうと口を動かした。
しかし、口をふさがれているため喋ることはできない。
「なあ、それ外してやれよ」
ユウゴが言うと、ケンイチは乱暴に口に噛ませていたタオルを取った。
苦しかったのか、男は大きく息を繰り返す。
「で? 暗証番号は?」
ユウゴが聞くと男は「さあ。忘れたな」と低い声で答えた。
それを聞いたユウゴは視線をケンイチに向ける。
するとケンイチは嬉しそうに目を輝かせて男の頬に肘鉄を放った。
狭い車内の中、さほど勢いもつけられなかったにも関わらず、男は押された勢いで窓へと頭を打ちつけた。
「おい、気絶させるなよ」
「これくらい平気だろ。鍛えてるんだもんな、おっさん?」
そう言って笑うケンイチを憎らしげに睨みながら男は体勢を起こす。
「暗証番号じゃなくてもさ、あんたが警護してた奴のスケジュールでもいいんだけど」
「今度はあの人を狙うつもりか」
「まあな」
ユウゴが言うと男は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

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