《MUMEI》

.

乗客が降りたことを確認したのだろう。タクシーはドアを閉めると、すぐに走り去っていった。


『彼』は、茶色いA4の封筒を小脇に抱えて、サングラス越しに、学校の校舎をじっと見つめていた。



………誰?

学校の関係者?

先生…にしては、若いよね?

わたしと歳はそんなに変わらないみたいだし。



不思議に思って、『彼』をじっと見つめているわたしの方へ、

突然、『彼』が、視線を寄越した。

そのまま、ジロジロとわたしの姿を眺めはじめる。



………なに?



わたしは心なしか、緊張する。顔が強張っていくのが、自分でも分かった。



『彼』は不躾な視線をわたしに向けたまま、

チッ…と感じ悪く舌打ちをして、なんだよ?と苛立ったような声で唸った。


−−−さらに、

『彼』はキョトンとしているわたしに、追い打ちをかけるように、



「ジロジロ見てんじゃねー、どブス!」



と、大声で暴言を吐いたのだった。



……。

………。

…………はぁッ!?



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