《MUMEI》
｢はあ、今日も早紀の声聞かなきゃ｣
いそいそと七生は携帯を取り出している。
帰宅(俺の部屋だが)早々ラブ全開かよ。

｢見せつけんの？｣
……不愉快。よそでやれ。

｢そっちも電話かければいいじゃないか。｣

｢……知らないもん｣



｢なんで付き合ったの｣

｢……う、
　　　　ウルセー！｣
クッションを投げる。
避けると思いきや七生に直撃した。

　………あー。

ずり落ちたクッションから満面の笑みが出てきた。
｢何すんだコーノヤロ！｣ クッションぶつけ合い大会のゴングが鳴る。

だんだん取っ組み合いに発展してきた。俺より小さいくせに力が強い。
反撃だこの！万年文化系ナメんなよ！





｢アンタ達静かにしなさい！｣
母さんの粛正を頂きました。何やってんだか。


　　｢……ゴメン。｣
馬鹿だ。勝手に羨ましがって七生に八つ当たりときたもんだ。
どうも七生相手だと自制がきかない。
布団も枕も全て落ち、ベッドの上で七生は馬乗りになっている。

負けた……。

掴みかけた俺の前髪から手が離れる。
広がった掌の中に二、三本毛根をとらえた。

｢まだ何も始まって無いじゃないか｣

｢うん｣

｢自信持て｣
七生の広げた掌が前髪にあたっている。俺を撫でているのか？

｢うん｣
……こういうときは優しいな。

｢……スキアリ｣
七生が脇腹を擽ってきていた。

｢ちょ、やめー……！｣

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