《MUMEI》 それは、本当にどうでもいいような口調で。 「死にたい理由はないけれど、生き永らえたい理由もないのです。」 ため息を、赤い唇が吐く。視線はやっとそれて、腕に感じる力も弱くなった。 それでも、手のひらは彼の鼓動に触れている。 とくん。 「やめた。」 言葉は、するりと簡単に零れた。先程までの興奮が、嘘のように引いていく。 彼は、訝しげに眉をひそめ、こちらを睨んでいた。 「お前を解剖するの、やめた。」 確かに最初は、彼の、いや、彼らの綺麗な瞳がビンに詰められた様子を思い、胸を躍らせていたけれど。 「それはまた・・・。」 少しだけ残念そうに、彼がうつむく。 「俺は、泣き叫ぶ生き物を、無理やり組み敷くのが好みだ。」 だから、そんな無気力なお前は、いらない。 腕が、降ろされる。鼓動が、俺から離れていく。 酷く疲れたように、彼は笑った。 「なるほど。さすが、真性のサディストさんと申しますか。」 俺も、小さく笑う。渇いた声。 なんだか、急に強い疲労感を感じて、座り込む。視界に、鮮やかな赤が飛び込んだ。 「今日は、ダリアだったのか。」 「え?・・・ああ、はい。」 指先で花弁をつつくと、はらはら剥がれた。 「喰わないのかよ。」 「今日は、桜さんの体調が優れませんでしたから。余ってしまいました。」 「ふうん・・・。」 妹の名を呼ぶ声は、柔らかい。あの噂は、まんざらでもないのだろう。 一片、ちぎって口に運ぶ。 広がる、苦味。 「・・・まっず。」 「当たり前でしょう。」 顔を上げると、彼はまた少し笑って、ダリアを拾い上げた。 前へ |
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