《MUMEI》
薬
「そう、これは薬だ。やっと出来た…人間のDNAを組み変える事の出来る薬‥
私のこれ迄の集大成!!」
有馬は涙を流していた。
自分の苦労が報われたという嬉し涙なのだろうが、それが一層、この男の狂った思想を浮き彫りにする。
加奈子は青ざめた。
「まさか‥まさかそれをリョウに?」
恐怖で声が震えてしまう。
「そうだよ。私は一時産婦人科医をしていてね…もちろん、この薬の適合者を捜す為に。
そして見つけた。
彼が生まれ落ちた瞬間、この子だって直感した。
私の直感はよく当たる‥
だから誰もいない時を見計らって薬を投与した。
その日から私は彼を見張る事にした。
暫くは何も起きなかったが、彼が五歳の時にそれは起きた。
リョウ君…覚えているかね?」
天井を仰ぎ見ていた有馬はリョウに目線を移す。
五歳の時といえば…
確か両親が亡くなった年…
リョウを苦しませている暗い記憶…
なんて残酷な問い掛けを!
「もう辞め‥リョウ?」
これ以上リョウの心の傷をえぐられたくなくて、有馬に掴み掛かろうとした時、異変に気付いた。
「リョウ?どうしたのリョウ!」
体を丸め込みながら苦しそうな声を出すリョウがそこにいた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫