《MUMEI》

「まったく最近の中坊は…」

優子がため息をつく。

「あんたねぇ…」

私は飽きれてものが言えない。
いくらムカつくからって、あんな口調で言わなくてもいいものを。

「何よ、いいじゃない。それにあんた困ってたでしょ?あんな青い顔して…」

優子が心配そうなまなざしで私を見てきた。
やっぱり優子はすごいと思った。

「ゆ、優子ぉー」

調子に乗って優子に飛びついてみるが、暑苦しいと追い払われた。

「そういえばおばさんいる?」

「いや、いないけど…」

母は日頃パートに行っているから、帰ってくるのは夕方になる。今はまだ昼前だから、帰ってくるまで待っとくというわけにもいかない。

「てか、お母さんとマブダチとか言ってなかったっけ?」

私は優子をからかう。

「マブダチでも知らないことはあるのよ」

優子は冷めた口調で返してくる。

「てか、そんなこと話に来たんじゃないの。…あんたちゃんとシンデレラ練習してる?」

優子が美しい腕を組んだ。



な、生肌…
っておやじか、私は。



「いや、あんま…」

というより、台本にすら目を通していない。

「ふーん…ま、いいけど…これから怜の家に徳山来るからそのつもりでいてね」

優子はにっこりと笑った。
私は目を見開く。

「は?何でよっ」

「シンデレラの練習に決まってるじゃない」

優子は怪しい笑い声をあげながら、許可もとらずに家の中に入っていった。



い、いやがらせか…



私はしばしの間、玄関の前でたたずんでいた。

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