《MUMEI》
焼きたてクッキーの行方
.

「…ねぇ」


晃に呼びかけたが、わたしの声が届かなかったようで、彼はまだぼんやりしている。


「ねぇってばッ!」


イラついたわたしが、少し大きい声で呼びかけると、晃はハッと我に返った。

慌ててわたしの方を見る。


「なに??仁菜、まだいたの??」



………『まだいたの』じゃねーって!!



わたしは晃に顔を寄せ、半眼で睨みつける。


「なによ、今の?」


素っ気なく尋ねると、晃は表情をパッと明るくし、わたしに顔を寄せた。


「てか、今の見てた!?俺、【レン】と話しちゃったよ!!あの【レン】だよッ!!すっごいよ!!」


興奮冷めやらぬ口ぶりで、まくし立てた。わたしが黙ったままでいると、晃はまだ続けた。


「どーしよー!!キンチョーして、上手く話せなかったよー!!ねぇねぇ、俺、ヘンな顔してなかった!?」


どうでもいいことで、ひとり盛り上がっている晃に、わたしは冷たい視線を向け、小さい声で呟いた。


「…クッキーは?」


わたしの唐突な台詞に、晃はキョトンとした顔をした。


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