《MUMEI》
魔法
智文はドアを開け、部屋に入った瞬間に右拳を突き上げた。
「ダー!」
満面笑顔でベッドに腰をかける。浴衣。彼は浴衣を両手で持った。顔をうずめたら単なる変態になると思い、両手で握りしめた。
「これ、夏希チャンが身につけてたんだ。持ち帰ったら泥棒かなあ?」
「ドロボーでしょ」
「やっぱし……え?」
窓のほうを向くと、真っ赤なドレスに身を包んだ美果がいた。
「わあああ!」
「驚き過ぎ」美果もベッドにすわる。
「どっから入って来たんだよう?」
目を丸くして聞く智文に、美果は冷めた感じで答えた。
「魔女にそれは愚問よ」
「人の部屋に勝手に入って、人のこと泥棒って言えるか?」
しかし美果は無言のまま智文を見つめる。智文も問題にするべきことはそこではないと気づき、震える声で聞いた。
「まさか。もしかして、君は…本当に魔法使いなの?」
「うん」
あっさり頷いた。智文は再び顔面にパンチ。痛い。夢ではない。
「司君。同じ女の子なのに、随分接し方に差をつけるね」
「差?」
何を言っているのか。同じ女の子とは。
智文は、美果との願いごとの話を思い出した。
「それよりおめでとう!」
笑う美果。智文は信じられないという表情で立ち上がると、小さい冷蔵庫から缶ビールを出した。
ベッドにすわるとひと口飲む。
(落ち着け。落ち着くんだ)
智文は美果を見た。
「あ、君も飲む?」
「あたしはいい。そんなことより司君。何でメルアド交換しなかったの?」
「いやあ。そう思ったんだけど、ここでサインとかメルアドとか、そういう話しないのがセンスかと思って…」
「なるほどね」美果は腕組みした。
「その前に何で君がそれを知ってんの?」
「だから愚問だって」
すべてお見通しか。智文の顔が曇る。
「司君。でもメルアド知らないんじゃ、せっかく知り合ってもこれっきりじゃん」
「まあ、そうなんだけど」智文はビールを飲む。
「もう一度チャンスをあげましょうか?」
美果の一言に、鈍感な智文はようやく気づいた。
「まさか君、マネージャーに化けた?」
「化けたよ」即答。
「雪降らせた?」
「降らせたよ」
「静電気も君の仕業?」
「しわざとか言わないでよ。司君のためにやったことなんだから」
口を尖らせる美果。智文はビールを飲みながら意気消沈した。
「こういうやり方ってどうなのかなあ」
「迷惑なら時間を巻き戻そうか?」
「わあ、たんま!」
慌てる智文を見て、美果は笑みを浮かべた。だが智文はまだ納得がいかない。

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