《MUMEI》
ピュア?
「でも、バスタオル一枚で廊下に出されたら、女の子にとっては凄い恐怖だよ」
「じゃあ、素っ裸のほうが良かった?」
「夏希チャンがそんなカッコでドア開けるわけないじゃないかあ!」
怒る智文を、美果は両手を出してなだめた。
「冗談よ、冗談。でもさあ、大ピンチを救ったからこそ、命の恩人なんでしょ?」
「でも…」智文は俯くと、ビールを飲んだ。
「自分の実力だと思った?」美果が真顔で首を傾けて聞く。「気に入らない?」
「いや、ありがとう」
純粋な智文を見て、美果は笑顔を見せた。
「司君って、いい人だね。応援したくなっちゃう」
「…いるんだな。魔女って」
「地球人は、この広い大宇宙に、知的生命体は自分たちだけだと思っているからね」
「違うの?」
智文の問いに、美果は顔を近づけた。
「目の前の人はだあれ?」
「そっか」
言われてみれば、UFOを見たという話をする人は、たいがい嘲笑の的になる。
宇宙人にさらわれたという話をすれば、それは夢だよ、と諭される。
「司君。夏希チャンともう一度デートしたい?」
「いや…」智文は困った。
「したくない?」
「したいけど、でも」
「そこでメルアド聞いて、あとは司君の腕次第よ」
確かに夏希と会うのは不可能に近い。今隣にいるとはいえ、いきなりメルアドを聞いたらマイナスポイントを加算しそうで怖い。
智文は落ち着きがない。ビールをグイグイ飲んだ。
「司君。デートだけでいいの。セックスは?」
「ぷー!」噴いた。
「汚いなあ」
少し離れるそぶりをした美果に、智文はまくし立てた。
「夏希チャンはセックスなんかしないよ!」
「はあ?」美果は顔をしかめた。「それはピュアを通り越してバカだよ」
「いいよバカで」
「言うまでもないことだけど、夏希チャンは経験してるよ」
「わーわーわー!」
「うるさいなあ」美果はスローモーションで智文の頬に右ストレート。「夏希チャンはアニメのヒロインじゃないよ」
「わーわーわー!」智文は両手で耳を塞ぐ。「何も聞こえない!」
「わかった、もう言わないから黙って、うるさい」
美果は智文の膝を叩くと、立ち上がった。
「じゃあ、司君。あたしに任せて」
「あ、でも、夏希チャンを恥ずかしい目に遭わせちゃダメだよ」
「わかったわよ」
美果はにんまりすると、窓のほうに歩いた。
「出口はこちら」
ドアを差す智文に、美果は意地悪を言う。
「いいの、あたしがドアから出た瞬間を夏希チャンに見られても?」
智文は顔面蒼白。
「それは困る」
「ならあたしに任せて。無茶はしないから」
美果は七色の光に包まれたかと思うと、姿が見えなくなった。
智文は目を丸くして硬直した。
「…消えた」

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