《MUMEI》
遭遇
夏希は仕事を終えて、マンションに帰宅。ドアを開けようとしたとき、廊下に人影が見えた。
「え?」
見ると、知らない若い女性。背伸びをしたらおへそが見えそうなTシャツに、ショートパンツ。裸足に洒落たサンダル。自信に満ちた笑み。
夏希は、ファンかと思ったが、警戒した。
「こんばんは」女性はニコニコしながら近づいてきた。
「何でしょう?」
「あたし、司君の友達の美果というものです」
「ツカサさん…あっ」
聞き覚えのある名前を出され、夏希は目を見開いた。
夏希は美果と対照的で、赤いTシャツにジーパンというラフなスタイル。
「彼女さんですか?」
「違う違う違う!」美果は慌てて否定した。「司君はただの友達よ。実は、あなたに一生に一度のお願いがあって来たの」
「あたし、司さんとは何でもありませんよ」
「大丈夫。修羅場じゃないから」美果は笑った。
「すいません。明日早いんで」夏希は鍵を開けた。
「夏希さん。ちょこっとだけ、あたしの話を聞いてくんない?」
「ごめんなさい。女性でも部屋に入れるわけにはいきません。わかってください」
夏希の丁寧な応対に、美果は微笑んだ。夏希は頭を下げると、素早くドアを開けて中に入り、ドアを閉めて鍵とドアチェーンをかけた。
「ふう。何だろう?」
修羅場は苦手だ。修羅場ではないと言っていたが。とにかく知らない人間を部屋に入れるのは危険だ。
「なかなか用心深いのね」
「え?」
夏希は驚いて後ろを振り向く。なぜか美果が部屋の中にいた。
「きゃあああ!」
「そんな悲鳴上げないでよ。人が来るよ」
余裕の表情で笑みを浮かべる美果。夏希は怖くなって殴りかかった。
「黙れお化け!」
いきなり右ストレート。交わされた。左フック、右ハイキック。しかし難なくよけられる。夏希はいよいよ焦った。
「落ち着いて夏希チャン。あたしは敵じゃないよ」
「黙れ!」
フロントキック。当たらない。サイドキック。美果はひょいとベッドに飛び乗る。夏希もベッドに乗った。美果はジャンプして飛び降りる。
「話しましょう夏希チャン」
「うるさい!」
夏希はベッドの上からジャンピングニーパット。あっさり交わされた。
「はあ、はあ、はあ…」
「スタミナ切れ?」
白い歯を見せる美果。強敵だ。夏希は両拳を構えて睨んだ。
「夏希チャン。お願いだから、あたしの話を聞いて」
「不法侵入者の話なんか聞かない!」
再び夏希は殴りかかる。美果は仕方なくドアのほうへ逃げた。
「わかった、出てく、出てく」笑いながら両手を出す美果。
「出てけ!」
「その代わり明日また来るから。そのときはちゃんと歓迎してね」
「二度と来るな!」
凄い剣幕に押され、美果は部屋を出た。
夏希はドアを閉めると、鍵とドアチェーンをかけた。おなかに手を当ててドアを見る。
「どうやって入ったの?」
さすがに怖くなった。

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