《MUMEI》
マジシャン
「ん……」
夏希は目を覚ました。よく眠れた。爽やかな朝だ。
「おはよう」
「え?」
見ると、目の前に美果がいる。
「ぎゃあああああ!」
「ギャーはないでしょう、ギャーは」美果は不満な顔をした。
「警察呼ぶわよ」夏希が睨む。
「あなたがちゃんと話聞いてくれないのがいけないのよ」
「ふざけんな!」
「あ、意外にあばずれなのね」
「うるさい黙れ!」
ガバッと掛布団を剥いだ。レモン色のパジャマだ。夏希が怒った顔で起き上がろうとしたが、美果は星のついたバトンを出して手に握った。
「え?」夏希は焦る。
「夏希チャン。あたしを怒らすとねえ。素っ裸にしちゃうよん」
そう言うと、美果がバトンを動かす。すると夏希のパジャマの下が消えた。
「きゃあ!」
「悲鳴は女の子っぽくてかわゆいね」
夏希は心底慌てた。美果はいきなり携帯電話を出す。
「あ、パジャマの上だけスタイル。司君が喜びそうだから一枚撮らせて」
冗談ではない。夏希は枕を投げつけた。
「危ない!」
美果は瞬時によけたが、夏希を睨む。
「人間界では携帯電話がないと不便だから買ったのに、壊れたらどうすんの?」
「人間界?」
「申し遅れました。あたしは魔女なの。あなたが殴りかかるから昨夜は自己紹介できなかったのよ」
「魔女?」
「魔法使いよ」
「警察呼ぶね」
夏希が立とうとすると、今度はパジャマの上も消えた。
「わあ、きゃあ!」夏希は両腕で胸を隠す。
「あら、ブラしてなかったんだ。ごめんね」
いよいよ冗談ではなくなってきている。夏希は怯えた表情で美果を見た。
「じゃあ、最後の一枚も取って、生まれたままの姿にしてあげるね」
美果が危ない笑顔でバトンを回す。夏希は弱気な顔で言った。
「待って、待って!」
「降参?」
「降参、ギブアップ」
「じゃあ、あたしの話を聞いてくれる?」
「聞きます。聞くから、パジャマは返して、わあ!」
パジャマを元通り着ている自分を見て、夏希は叫んだ。
「素直に降参したから、全裸は許してあげる。あたしって優しいでしょう?」
夏希は顔を紅潮させると、感嘆した。
「あなた、凄いわね。一芸に秀でている人は一目置くわ。それは、マジック?」
「魔法よ」
「マジシャンって、自分がエスパーみたいなこと言うよね」
夏希の友好的な笑顔を見ると、美果も安心してベッドに腰をかけた。
「ごめんなさい、すわらないで」
「そんな硬いこと言わないでよ」
「ベッドはイスじゃないでしょ」
美果は早く会話がしたいので、素直に聞いた。
「じゃあ、どこすわったらいい?」
夏希はクッションを床に置いた。
「ここすわってください」
「あ、どうも」
夏希もクッションを持って来てすわった。
「夏希チャン。もう一度だけ、司君と会って」
「え?」

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