《MUMEI》
メルアド
美果は両手を合わせた。
「夏希チャン。一生のお願い」
「お断りします」
あっさり言われて、美果は驚いた。
「嘘でしょ」
「なぜ会わなきゃいけないんですか?」
「そういう冷たいこと言うとねえ、生放送中にスッポンポンにしちゃうよ」
夏希は蒼白になった。
「そんなことしてみなさい。絶対許さないよ」
「冗談よ、冗談。あたしがそんな残酷なことすると思う?」
夏希は睨むのをやめて穏やかな表情になると、美果の腕を掴んだ。
「わあ、たんま、暴力反対」
「約束して。そんなことされたら、あたし女優生命終わっちゃうよ」
「だからしないって」
夏希は唇を結んで美果を見つめると、手を放した。
「智文さんに会えばいいわけね?」
「そんな冷めた言い方しないでよ。全くの脈なし?」
「脈なしも何も、あたし、彼のことは何も知らないもん」
「会って話さないとわかるわけないじゃん」
「だから何で会わなきゃいけないの?」
夏希の乗る気のなさに美果は考えた。この状態で会っても結果は厳しい。
「じゃあ、メルアド教えて。それくらいならいいでしょ?」
夏希は渋々言った。
「まあ、メルアドくらいなら」
「やったあ!」
美果は外交の成果に本気で喜んだ。何も結果を出せないどころか、夏希を激怒させてすべてを壊したとなれば、とても智文のもとへは帰れない。
美果は無事に、自分の携帯電話に夏希のメールアドレスと電話番号を登録した。
「ありがとう夏希チャン。それでは、お仕事頑張って」
敬礼ポーズをすると、美果はさっさと部屋を出ていった。
「……」
夏希は、ゆっくり首をかしげた。

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