《MUMEI》
可憐な乙女
智文はベッドにあぐらをかき、夏希の写真集を見ていた。
「かわいい」
水着姿で砂浜を駆ける夏希。たまらない。
満面笑顔の智文は、夏希の魅力光線に何度もタップアウトしていた。
興味津々の目でページをめくる。
「うにょ」
白いバスタオル一枚で部屋の中にいる夏希。
「これはヤバいでしょ?」
夏希の後ろ姿。バスタオル一枚で窓の外をながめる。見事な脚線美。智文はエキサイトした。
「これは、ちょっと、ヤバいでしょう?」
「何がヤバいの?」
「ん……どわあああ!」
真後ろに美果。危うく宝物の写真集を投げるところだったが、何とか手を放さなかった。
「部屋入るときはチャイム鳴らしなよ!」
「わかった。今度からそうする」
美果も夏希に負けない可憐な乙女。ニコニコされると弱い。智文は深呼吸すると、ベッドに腰をかけて頭を抱えた。
「プライベートが…」
「充実してる?」
「はい?」
智文は美果を睨む。美果は智文の隣にすわると、口を尖らせた。
「随分扱い方が違うね」
「え?」
「後ろ振り向いたら夏希チャンがいました。さて、今みたいな沈んだ顔をするでしょうか?」
「夏希チャンは瞬間移動しないから」
智文は写真集をカラーボックスの上に置いた。美果を見る。赤いシャツに白のショートスカート。裸足だから嫌でもしなやかな脚が強調される。
(嫌ではないが…)
「何?」
「いや、君はチャーミングだと思って」
「嘘」美果は凄く嬉しそうな顔をした。「言葉って魔法みたいな威力があるね」
智文も驚く。
「魔女って、人間みたいな心があるんだね?」
「そうだよ。司君の心ない一言で傷つくかもよ」
「そんな」
「地球人はさあ。世界各国のいろんな映画やドラマで魔法使いが登場するのに、なぜほぼ全員が架空のものだと決めて見ているの?」
急な問いに、智文は答えに窮した。確かに天狗も河童も山姥も吸血鬼も、架空のものという大前提で見ている。
「ところで司君」
「はい」
「夏希チャンのメルアド知りたい?」美果が白い歯を見せる。
「そりゃあ、知りたいけど」
「教えてあげようかあ?」
「知ってんの!」
「声が大きいよ」
美果が携帯電話を出す。しかし智文は激しく首を左右に振った。
「ダメだよ、そういうのは」
「魔法じゃないよ。ちゃんと本人から聞いたんだよ」
「何だ、それならいいやって、えええええ!」
「驚き過ぎ」美果は呆れ顔で言った。
「本人って、まさか、いつ夏希チャンに会ったの?」
「夏希チャンのマンションに行って来たのよ」
智文の顔が危ない。
「マンションってどこ?」
「本人に聞けば」
美果はすました顔で言うと、携帯電話を智文のポケットに向けた。
「行ったよ」
「赤外線?」
「そんな面倒くさいことしないよ」

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