《MUMEI》
魔女と同居!?
智文はややムッとした顔で自分の携帯電話を見た。夏希のアドレスらしきものが入っている。
「魔法をやたらめったら使うのは良くないと思うんだけど」
「あ、司君。お母さんと同じこと言うのね」
「お母さん?」
「あたしのお母さん。人間界ではギリギリ人間として振る舞い、どうしてもというときだけ魔法を使いなさいって」
「お母さんが正しいよ」
「あたしの魔法で夏希チャンと友達になれたのに?」
それを言われると反論できない。
「嘘よ嘘。あたしが人間界に来たのは、魔法をギリギリ使わないでどこまでやれるかっていう修行のためだから」
「それなのに使いまくってるの?」
「宿泊する家を探すまでは仕方ないよ」
「ふうん」智文は感心するように頷いた。「で、家は見つかった?」
美果はつぶらな瞳で智文を見つめた。
「こんな可憐な乙女を、真夏の公園で野宿させる気?」
「ちょっとたんま」智文は本気で慌てた。
「ヤらしい男たちにあたしが変なことされても、司君平気なの?」
「冷静に話そう美果チャン」
「美果でいいよ」
魔女と同居。あり得ない。青春の大ピンチだ。
「いや、君みたいな魅力的な女の子が、男一人暮らしの部屋に寝泊まりするっていうのは、非現実的だよ」
「ヤなの?」
「嫌じゃないけど、オレって結構、肉食だよ」
「じゃあ、ステーキご馳走してあげる。お金はあるから」
話がずれた。
「お金はあるんだ?」
「だって、お金がなきゃ何もできない世の中でしょ?」
「まあ、情けないけど…」
「人の心も荒むわけね」
「外国の方に言われて面目ないが……。あれ、君はどっから来たの?」
「魔法の国からよ」
「お母さんはじゃあ、魔法の国にいるんだ?」
「そう」
それ以上聞いても、どうせ地球人の概念を超えたものだろうと智文は判断し、話を変えた。
「美果、オレのこと信用してるの?」
「まさかあたしにエッチなことしようなんて考えてないよね?」美果が笑顔で迫る。
「まさか」
「もしもあたしに手を出したらねえ、女子レスリング部の更衣室に全裸で放り込むからね」
「やめなさいって、そういうことは」
「キャハハハ。やらないわよ、大切な司君にそんなひどいことは」
大切な…。心に響く言葉。智文は前途多難ながらも、美果との同居生活には、胸の高鳴りを覚えた。

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