《MUMEI》 アタシがポカンとしている間に、キシは笑顔で殺気を放ちながら話を続ける。 「そして例の料理教室が、料理した所なんですね? 料理教室ならば、それなりの設備に調味料も揃えているでしょうし。ましてや普段は肉料理専門ですから、料理をしてても疑われることもなかったでしょう」 「そうだね」 「そして料理を準備して、公園に準備をする。…そしてヒミカが来るのを、待っていたんですね?」 「でもヒミカくんは一度たりとも来てはくれなかったけどね。まさか生が好みだったとか?」 サガミ先生は笑顔でアタシを見た。 「ヒミカは人を食いませんよ、サガミ先生」 「自分の生き血は飲んでもかい?」 「ええ。ヒミカは自分を傷付けることで、他人を傷付けずに生きてきたんですよ。―あなたが余計なことをするまでは」 キシの眼に、鋭い光が宿った。 「どう…してですか? 先生」 アタシの声はかすれていた。 きっと泣きそうな顔をしているだろう。 「ヒミカはやっぱり鈍いんですね。アナタのことが、好きなんですよ」 「えっ…」 「最初から、言ってたじゃないですか? この事件はヒミカへの招待状であり、ボクへの挑発だと」 確かにキシはそう言っていた。 だけど本当にそうだとは、思っていなかった。 アタシはすがるような気持ちで、サガミ先生を見た。 先生はにっこり笑い、 「そうですね。恋に似ているかもしれません。ヒミカくんのことしか、考えられなくなっていますから」 …と肯定した。 前へ |次へ |
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