《MUMEI》 「ヒミカくんが自分の血を飲むところを見た時から、心奪われててね。それでもキミをどうこうしようとは考えていなかったんだ。ただ…」 先生はキシに視線を向けた。 「キシくんと付き合いだしたことを知って、流石に冷静ではいられなくなった。だからせめて、特別な存在にはなれなくても、キミの為に何かしたかった」 「それが猟奇殺人事件の動機ですか? 何ともまあ、バカらしい理由ですね。ヒミカに料理を食べてもらいたいが為に、人殺しをするなんて」 「キシくんは簡単にヒミカくんに料理を食べてもらえる立場だから、そう言えるんだよ。だから僕はこんな方法しか、取れなかったんだ」 先生は自分の両手を広げて見た。 「…でも流石は優等生のキシくんだね。警察なんか足元にも及ばない捜査力だ」 「そりゃ、ボク自身とヒミカの為なら。…ああ、ちなみに証拠は例の料理教室で見つけましたよ。殺された人間の残骸が、まだ残っていましたからね」 「ああ、それはしょうがない。人間って簡単には捨てられないからね」 仕方無いというふうに、先生は苦笑いした。 「…それで、サガミ先生はどうするんですか?」 「何がだい?」 「これからですよ。警察に自首します? それともここから飛び降りて、死にますか?」 「キシッ!」 冗談でもそういうことは言って欲しくなかった。 「そうだねぇ…。まあキミ達が僕を訪ねてきたところで、もう終わりだろうとは思ってたんだけどね」 先生はポケットから、折りたたみ式のナイフを取り出し、刃を出した。 「このまま捕まったら僕はもう二度と、ヒミカくんと関われないだろうし、忘れられてしまうだろう」 「ええ、きっぱりすっきりあっさり忘れるでしょうね」 前へ |次へ |
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