《MUMEI》
ナース☆HIZIRI
「38度2分…」

「はあ…」



俺は数年ぶりに熱をだした。






俺はベッドに寝かされ、聖ちゃんは何やら電話をしだした。
話す感じからすると陸さんに電話した様子。真剣に俺の症状を伝え、何やら聞きだしている。


いくら熱出たからといって多分病院に行く程でもないし、ただでさえ世話になっているのだからおばさん達にも内緒にしてもらう事にした。


聖ちゃんは電話を切った後メモ用紙に何やら書き込み、そしてコートを着て財布をポケットに入れた。

「ちょっと買い物行って来るから、絶対起きるなよ」

「うん…」

何時もの聖ちゃんと違って今日は頼もしくみえる。

ああ…病気になると更に恋人の存在の有り難さがよくわかる。


俺は幸せだ…

病気万歳!
今日は聖ちゃんに看病して貰えるんだ!





安心して眠っていたらドアの開く音がした。ただいまと小さな聖ちゃんの声と買い物袋が、がさがさなる音がした。

うん、風邪薬買ってきてくれたんだろう。
そしてキッチンの方から包丁で何かを切る音がする。


ああ。きっと風邪にいいもの作ってくれてるんだ…


ほら、なんか匂ってきた…
あーでも…


なんか嗅いだ事のない匂いなような…




「貢ちょっと起きて」

「…ん」

背中に手を添えられ俺はゆっくりと起きあがった。
起きあがると頭痛がする。今日は本当にダメだ。

「タマゴ酒作ったんだ、これ飲んであったまろ?」

「タマゴ酒?…スゲー、初めて」
噂に聞くタマゴ酒。見た事も飲んだ事もない、いにしえの薬酒。
俺は聖ちゃんから湯飲みを受け取り、中身を見た。


「……、…タマゴ酒って凄い色なんだね」

なにこれ、どぶ色っていうの?
タマゴ酒ってタマゴ色なのかと思ったら、焦げ茶の腐った色をしている。

つ、つかマジで腐った匂いなんですけどこれって気のせいでしょうか?


「これ、タマゴと酒と…他何が入ってるの?」

「ん?タマゴと酒だけだけど、ほら冷めないうちに飲んで!」

俺は意を決しそれをごくりと飲み込んだ…がっ!

「クハッ!ウアッ!オエェッ!!!」


なんだこれ!一口だけでも地獄のまずさ!
臭い!生臭い!とにかく世界中の腐臭をこのいっぱいに閉じ込めたような悪魔の酒だっ!

俺は湯飲みを聖ちゃんに向けながら

「む、むりぃ!聖ちゃんごめ…」

「無理じゃねえ!飲め!俺のタマゴ酒が飲めねーのかっ!」

「なっ!」

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫