《MUMEI》 『…キライにはなれなかった。苦手だったけど、優しかったから。義母も…本当はオレに優しくしたいと思っていたみたい。だけど、親父を愛していたから…』 自分から一時でも愛した男を奪った女の子供を、素直に愛することは難しいだろう。 『それに義母は…兄さんを産んだ人。キライにはなれなかったよ』 私は今まで何かを強く愛したことはない。 けれど…ハズミの痛いほどの心が今、伝わってくる。 『兄さんはオレが親父の家に引き取られた時、唯一優しくしてくれた人だった。他の兄弟は嫌がっていて、兄さんは長男だったから、責任感もあったと思う』 「…ああ」 『そのままずっと十五年も一緒にいて…。気付いていたら、好きになってた。でも兄さんはオレを義弟としか見ていない。そのことが残念でもあり、嬉しくもあったんだ』 「うん」 『だけど婚約したって聞いて…。今まで抑えていた感情が爆発した。気付いていたら睡眠薬をいっぱい飲んでた。朦朧とした意識の中で、ケータイに最後にオレの気持ちを残したんだ』 誰に宛てるでもない愛の遺言。 さぞかし周囲を悩ませただろう。 『でもケータイの存在だけが、死んだ後も感じていた。そして気付いたら…』 「【携帯彼氏】になっていたのか。…さぞかしゾッとしただろ?」 『そんなことはないよ。女の子と遊ぶの、昔っから好きだったし』 「何じゃそら」 『ふふっ』 笑顔を取り戻しつつあるハズミだが、そのラブゲージは40。 前へ |次へ |
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