《MUMEI》

ふと、彼の顔が険しくなった。

「俺はこの歳になって、未だに家の力以上のものを手に入れていない。だから足りてないのさ」

「何が…足りないの?」

「そりゃ、パートナーさ」

そう言って不敵な笑みを浮かべる。

「常に俺の隣にいて、離れていても俺のことが分かっているヤツがいないんだ」

もしかして…。

「それが、あなたの結婚相手の条件?」

「ああ。ただ家の中にいて、満足するだけの女には興味がない」

それは…確かに、私があてはまるけど…。

「今までそんな女とばかり見合いさせられた。けれど今回は当たりだったな」

「…写真だけで分かったの?」

「ああ。だから年齢は知らなかった」

それだけが失敗だとでも言うように、肩を竦める。

「けどま、そんなのは障害にもならないか」

そして再び笑うと…いきなりお姫様ダッコして、立ち上がった。

「なぁっ!」

「嫁に来いよ。俺と一緒なら、世界相手に働けるぜ?」

「なななっ…!」

間近で見る彼の野生的な眼を見て、言葉を失う。

確かに…彼と一緒になることが1番の早道らしい。

「…つまり、お互いに利用し合うってこと?」

「それもあるが、まずは…」

彼は外に出て、歩き出した。

「結婚式が最初だな!」

「早過ぎるわ! 私、まだ女子高校生なのよ〜!?」

私の叫びは、虚しく庭園に響き渡る。

…世界相手より、彼相手の方が大変そうだ。

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