《MUMEI》

「懸賞首がそうやすやすと役員に近づけるわけないと思うがな」
笑みを浮かべたまま言った男にユウゴは笑顔を返す。
「おまえ、頭悪いのな。やすやすと近づけたから、今おまえがここにいるんだろ? ついでに俺は今は一人じゃないしな」
ユウゴの言葉に、男は浮かべていた笑みを引っ込めた。
そして隣に座るケンイチに目を向ける。
「たしか、協力者が二人いると聞いている」
「おう、それ俺たちのこと」
ケンイチは嬉しそうに笑う。
「でも、まだ素性は知られてないみたいだな」
ユウゴの言葉を肯定するように男は唇を噛み締めた。
「まあ、そんなことどうでもいいんだよ。あいつのスケジュール、さっさと教えろ」
「だから忘れたと言っているだろう」
「ケンイチ」
ユウゴに呼ばれ、ケンイチは「オーケー」と楽しそうに男の髪の毛を掴んだ。
そして顔面を窓に数回たたきつける。
男が顔を起こすと、座席の下に白いものが転がっていくのが見えた。
「あ、悪い。歯が折れちゃったな」
そう言ったケンイチは男の顔を見ながらニヤニヤと笑っている。
男は口から血を流しながらケンイチを睨むと、視線をユウゴへと向けた。
「早く言った方がいいんじゃねえの? こいつ、何するかわかんねえぞ」
しかし男は黙ったまま、何も言おうとはしない。
ユウゴは小さくため息をつくと「おまえのその鞄に入って物、使ってもいいぞ」とケンイチが持つ鞄に目を向けた。

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