《MUMEI》
電車でのキス
「おっ遅れるぅ〜!」

わたしの住む田舎町では、電車は1時間に1本。

だから乗り過ごしたら、遅刻は決定的!

でも電車が出発するブザーの音が響く。

もうっ…ダメか!?

「諦めるなっ!」

「えっ?」

いきなりグイッと腕を捕まれた。

「きゃあ!」

電車の中に引っ張られた。

プシュー… ガタンゴトンッ

電車は…わたしを乗せて、動き出した。

「あっ、間に合った…」

ほっと安心するのも束の間、自分の状態を思い出した。

わたしの腕を引っ張った人の腕の中に…いる。

「ごっゴメンなさい!」

わたしは慌てて離れた。

見知らぬ男子学生が、驚いた表情をしている。

「あっ、こっちこそゴメン…」

「うっううん。間に合ったから…。ありがとう」

ぺこっと頭を下げて、わたしはイスに座った。

人気が少なくて良かったぁ。

「ふぅ…」

一息つくと、さっきの彼の方に視線を向ける。

彼はわたしとは向かい側のイスに座った。

あの制服は知っている。

わたしの高校は3つ先の駅にあって、彼のはそこからまた2つ先の高校だ。

ネクタイの色からして、同じ1年生だろう。

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