《MUMEI》

小さな田舎町だから、わたしが知らない顔だということは、違う町のコなんだろうな。

…にしても、情けない。

電車に乗り遅れそうなのを、助けてもらったなんて…。

でも彼には感謝しなきゃ。

いつかは何かお礼をするのも良いだろう。

そう思っていたら…いつの間にか、3年の月日が流れた。

お互い高校三年生。

あの衝撃的な出会いから、ずっと彼のことを意識していた。

けれどお互い一言も言葉を交わさず、ただ電車の中で姿を見つけては安心するだけ。

そして季節は春になった…。

卒業式を終えて、わたしは花束を持って電車に乗り込んだ。

「あっ…」

人気の少ない電車の中に、同じように花束を持った彼がいた。

彼の学校も、卒業式だったんだろう。

これで…彼の姿を見るのも、最後。

わたしは彼の真向かいのイスに座った。

彼は花束に視線を向けたまま、動かなかった。

きっといろいろと思い出しているんだろうな。

わたしも…思い出す。この三年間、彼を見続けたことを。

そして電車は、わたしの町に止まりそうになる。

このままじゃっ…本当に何もないまま終わってしまう!

わたしは立ち上がり、彼の前に来た。

「あっあの!」

「えっ…」

彼はきょとんとした。

「おっ覚えてないかもしれないけど、前に電車で助けてもらった者です。こっこれ、遅くなったけどお礼です!」

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