《MUMEI》 ジェラシー智文の休日。美果はブルーのワンピースだが、裸足なので、智文も目のやり場に困る。 (美果チャンもやっぱりかわいいな…なんていかんいかんいかん。夏希一筋じゃないと情熱のエネルギーが分散して願いは叶わなくなる) 「独白が長いよ」 「わあ!」智文は目を丸くして美果を見た。「まさか、今、心を読んだ?」 「読んでないよ」美果は真顔で答えた。 「ふう…」 「それより昼食べに行こうよ。肉食なんでしょ。ファミレスでステーキはどう?」 「昼食は1時から」 そう言うと智文は、テレビの前にすわった。 「わかった。夏希チャンが出るんでしょう?」 それなら象が踏んでも動かない。美果も諦めて隣にすわった。 「そうだ、美果。電話には絶対出ちゃダメだよ」 「わかってるよ」美果は口を尖らせる。 「チャイムが鳴っても出なくていいから」 「ハイハイ」 「夏希チャンが遊びに来たら消えてよ」 美果はふくれた。 「いなくなれってこと?」 「まさか」 「地球人は感謝の心が薄いね」 智文は慌てた。 「まさか。オレが美果にどれだけ感謝しているか。いちいち言わないとわからないのか?」 「恋人同士でも夫婦でも、以心伝心はないと思わなきゃ。その都度言葉で優しく伝えてくれないと、不安になるよ」 「なるほど」 智文は晴れやかな笑顔でテレビ画面を見た。 「あたしから聞いた話を夏希チャンのみに実行する気?」 やけに絡む美果。智文は困った。 「すべては美果のおかげだよ。心の底から感謝してるよ」 「それでよろしい」美果は満足の笑みを浮かべると、テレビを見た。 番組が始まった。司会者がマイクを持って早口に喋る。 「こんにちは。石谷淳です。きょうはスペシャルゲストがお二人います。まずは人気絶頂、冨田夏希チャン!」 女性客からもキャーッという大歓声に、美果は驚いた。 「凄い人気じゃん」 「まあね」 「まあねって、もう自分のものになったつもりでいるわけ?」 美果がムッとしながら左右のパンチ。 「テレビ見ましょう、テレビを」 夏希が司会者と喋っているのに勘弁してほしかった。 「夏希チャンは催眠術は信じます?」司会者が聞く。 「あたしは信じますよ」 「じゃあ、きょうは楽しみですね」 「はい」 「それではお呼びしましょう、スペシャルゲスト。カリスマ催眠術師、仙春美先生!」 すると、スタジオに怪しげな音楽が流れ、白い煙が吹き出す中、仙春美が登場した。 美果は唇を結び、無表情で見ていた。 大柄な中年の女。そういう印象しか受けないこの女性を、司会者も観客も畏敬の眼差しで迎えている。 美果は違和感を感じた。 「何この人?」 「凄いんだよ、催眠術。みんな簡単にかかっちゃうから」 「ふうん」 「人気あるんだよ。綺麗だし」 「はっ?」 美果の反応に、智文は思わず聞き返す。 「あれ、綺麗じゃない?」 「どこがよ。日本人得意の裸の王様じゃないの」 「裸の王様?」 「日本の芸能界には結構いるでしょう。大して綺麗じゃないと思ってんのに、みんなが綺麗綺麗って言うから、綺麗って言っちゃうみたいな」 智文はたしなめた。 「美果のルックスでそれを言ったらひんしゅくを買うよ」 美果はなぜか怒った。 「何だと、あたしはこの人に劣るかあ?」 再び左右のパンチ。 「ちょっと、何怒ってんだよ。美果みたいな美人さんがそういうこと言ったら反感買うでしょう」 「ん?」 美果は智文のセリフを思い返した。 「あ、そういう意味か。何でもない」 「……」 前へ |次へ |
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