《MUMEI》

 「あら。ここの会社倒産したの」
翌日、畑中が営む古着屋
暇な店内で店番ついでに読みふけっていた新聞に気になる記事を見つけ、畑中はその記事を隅々まで熟読し始めていた
「……負債まみれの会社を買収、ね。世の中にはモノ好きも居るも……」
読む最中に、言葉が途切れた
其処には買収した企業の名も記されており
その名に、畑中は若干の覚えがあった
「また、下らない買い物をしたみたいね」
呆れたように呟いてすぐ後に
店の戸が客によって開かれた
出迎えの言の葉を発しようとした畑中だったが
現れたその姿に、声どころかそれまでの穏やかな雰囲気まで消えていた
「……何か用か?」
それまでのオネェ言葉は消え、途端に男口調へ
店へと入って来たのは昨日の少年
畑中の姿を見るなりその傍まで歩み寄り
突然に畑中の胸座を掴み上げていた
「……いきなり、なんだ?」
訳が分からない、と怪訝な顔をして返せば
「……返せ、よ」
「は?」
囁くような声が聞こえ
だが訳が分からない畑中は益々怪訝な表情を濃いソレに変え、何の事かを問うていた
「……しらばっくれる気か?全部アンタ達の所為なのに。返せよ」
「だから、何の話だ?」
相手の言っている事がどうしても理解出来ずに居る畑中
困り果ててしまった丁度その時
店内に電話の音が鳴り響いた
畑中は相手を睨みつけながら一度を打つと、手荒く受話器を持ち上げる
『もしもし、和志さん?』
そして聞こえてきたその声は
随分長い間、合う事をしていなかった母親の声だった
『久し、ぶりね。元気だった?』
「元気だったよ。アンタの声聞くまではな」
『和志さん……』
「で?今日は一体何の用だ?雑談する為に掛けてきた訳じゃないんだろう?」
さっさと話せ、と急かしてやれば
暫くの沈黙、そのすぐ後に
『……それなのだけど、和志さん。今からそちらに行っても構わないかしら?』
話したい事がある、との申し出
電話では話せないことなのか、と訝しめば
『……ちょっと込み入った話だからちゃんと会って話したいの』
「悪いがこっちも取り込み中だ。また今度にしろ」
『それがそうもいかないの。じゃ、今から行くから』
待っていろ、畑中の話になど耳も貸さずに電話は一方的に切られた
畑中はまた舌を打つと、深々しい溜息をつく
「……お前が一体何の事を話しているのか俺にはさっぱりだが、これでもう用は済んだだろ」
さっさと帰れ、と手で追いやってやれば
だが相手はまるで幼子の様にかぶりをふり、その場に座り込んだ
「おい……」
「……したくせに」
「は?」
「……お前らが殺したくせに!」
突然怒鳴り始めた思えば
その眼尻には涙が滲んでいた
相手が一体何を言っているのかが畑中にはどうしても理解出来ず
一方的に言われ続け、苛立ちばかりが募っていく
「……お前、いい加減に――」
怒鳴り返してやろうとした矢先、店の戸が開く音
そちらへと向いてやり、出迎えの言葉を言い掛けで
入って来た人物に畑中の表情が強張ったソレに変わった
「本当に来やがったか……」
「来なければいけない用事があったのよ。ここじゃ何だから、部屋の方に上げて貰え……」
言葉も途中に、何故か母親の声が途切れていた
何事か、とそちらへと向き直った畑中は
先客の姿を見、ひどく動揺している母親の姿を見る
「……どうして、あなたが此処に居るの?和泉君」
どうやら互いに知った顔なのか
先客の方は母親をきつい目つきで睨みつけ
母親は困った様な顔
一体どういう関係なのかを、畑中は一応問い詰める
「あんた、何も知らねぇんだな」
相手からの、冷淡な視線
だが畑中はソレを軽くあしらうと
「生憎と、こいつらが何やってようが興味無いんでな」
声に笑みを含ませながら返してやる
ソレが癪だったのか
「……所為で死んだのに」
「何?」
よく聞こえず、つい聞き返せば
顔を上げ、畑中を睨みつけてきた顔とぶつかった
その顔は、泣き顔
「……お前らが全部悪いんだろ!馬ー鹿!」
相も変わらず悪態を吐くと
相手はそのまま踵を返し、その場から逃げる様に立ち去っていった
後に残された畑中と母親
暫くの無言の後
「……どういう状況になってんのか、説明して貰おうか?」
母親を睨みつけてやれば、

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