《MUMEI》

涙目になりつつも重たい荷物をせっせと運ぶ。とは言っても大して数はないからそう辛くない。家具なんかは持ってきていないのだ。最初から静乃さんの家には俺たちの家具、というか部屋があるから。昔、何故か訊いてみたところ、「いつ君たちが遊びに来ても良いように」とのこと。静乃さん、素敵過ぎる。ああ、因みに金のことなら全く問題ない。何故なら、敏腕女社長だから相当稼いでいるのだ。小遣いやらお年玉やらもたっぷりくれるし、本当静乃さん大好きだわ。
「二人とも、お疲れ様。」
「サンキュ静乃さん。」
「ありがとうございます。」
俺は砕けて司は丁寧に、ジュースをくれた静乃さんに礼を言う。そんな俺たち、というか司に静乃さんは苦笑した。
「そんな畏まらないでよ。今の私は君たちの母親なんだから、楓ちゃんみたいに砕けて話して頂戴。ね?」
少し驚いて呆けていた司だが、少々経つと顔を赤らめはにかみながら言った。
「……うん、分かった。か、かあ、さん……」
これには俺もびっくりだ。まさか「かあさん」とくるとは。いやまあそれも驚きだがそれよりも
「かわいいっ!」
おっと静乃さんに言われちまった。つか静乃さん、司のこと抱き締めてるし。
そうなんだよ、司たまにすげー可愛いんだよ。見た目が一級、いや特級だから、可愛い態度やら仕草やらをされるともう発狂しそうになる訳ですよ。実際発狂して暴走した奴らもいたし。そういう奴らを抑えないといけないから俺に発狂してる暇は無かった。おかげで鋼の理性を手に入れましたよ、ええ。
ん? どうやって抑えたかって? そりゃあ手荒なことは出来ないしやんわりと……「司に嫌われるぞ」って……。女子は。じゃあ男子はって? 当然捻り潰した。誰がむざむざ変態どもの好きにさせるかってことで、司を怖がらせたことへの制裁の意味も込めて全力で。まったく、司は歴とした男だっつーの! 「コイツ女だったらなぁ……」とか思ったことがあるのは内緒の方向で。

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