《MUMEI》
催眠術
美果は、夏希のショートスカートと長いソックスを見ていた。
「司君は清純派が好きなの?」
「何で?」
「脚全部見せちゃうよりチラリズムがいいんだ?」
「別にそういうわけじゃないよ」
CMになった。
「美果は、何でオレの願いごとを叶えようと思ったの?」智文は美果を見つめた。
「お母さんから、日本は自己中天国って聞いてたから、いきなりお年寄りに席譲る好青年と出会ってね。嬉しくなったの」
好青年。それは違う。智文は本当のことを話した。
「あれは、君にカッコつけようと思ってやったことだよ」
「え?」美果は智文を見た。
「かわいい子だなと思って。脚きれいだし」
「嘘」美果は照れながら脚を触った。「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
美果は甘えるように寄っかかる。智文はドキッとした。
(やめてくれい!)
CMが終わった。スタジオでは、仙春美が夏希に話しかけている。
「あなたは、催眠術なんかヤラセと思ってるでしょう?」
「まさかまさか!」夏希は目を丸くした。「思ってませんよそんなこと」
「きょうは、あなたに催眠術をかけてあげる」
「ダメですダメです」夏希は両手を出して断った。
「あなたは、絶対ヤラセなんかしない女優だと、みんな知ってるからね。だからあなたがかかれば、ヤラセじゃないって証明できるわ」
「なるほど」司会の石谷淳が調子を合わせる。
「なるほどじゃないですよ。あたしはイヤですよ」
「そういえば夏希チャン。前に催眠術ってヤラセですよねって言ってたじゃん」
夏希は石谷を睨んだ。
「言ってませんよ!」
「あなた影でそういうこと言ってるの?」仙春美が笑顔で迫る。
「まさか。この人が嘘ついてるんです。この人にかけてください」
「テレビ的に、俺より夏希チャンにかけてほしいって、みんな思ってるよ」
「よく言いますよ」夏希は不安な顔色でおなかに手を当てた。
「どう。夏希さん。私と真剣勝負をしない?」
「真剣勝負?」
「私の得意技、バスルームの脱衣所に連れていく催眠術よ」
夏希はハッとした。観客席のほうを見て美果の姿を探す。
生放送中に裸にするという言葉を思い出したのだ。
「ギブアップです」
「ブーブー!」石谷淳がブーイングを先導する。
「うるさい!」
本気で焦っている夏希を見て、智文も観客も緊張した。
「夏希さん。もしも催眠術にかかったら、脱衣所で全部脱ぐことになるわよ」
「やりませんよ勝負なんか」夏希は立ち上がった。
「逃げちゃダメだよ。裸にされる前に僕が助けてあげるから」
「信用できませんね」
夏希と石谷が喋っている隙に、仙春美も立ち上がった。
「あなたは段々眠くなあるう」
「きゃあ!」
「眠くなあるう」
スタジオをぐるぐる回って追いかけっこ。石谷淳は大笑いしているが、観客は半々だ。夏希の逃げ方は演技とは思えない。
智文も心配顔だ。美果はじっと仙春美を見ていた。

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