《MUMEI》

「俺は間違ってないから。今まで人をこんなに好きになったこと無かったし、付き合ってこんなに長い人も初めてだったよ。
おじさんとおばさんには悪いけど俺は二郎の中心に居るんだ、今日は駆け落ち覚悟で来ました。」

相変わらずエキセントリックな思想を持っている。


「それは困るわ、二人が居なくなったら誰が母さんにエルメスの鞄を買ってくれるのかしら……。」

母さん、このタイミングで鞄はないだろう……


「鞄欲しかったのか?」

聞いてみた。


「乙矢君は母の日にプラダの鞄あげたんですって……素敵よね。」


「……俺も母の日に食事に連れてったじゃないか。」

そうだ。
家族で母の日に二郎の車に乗って、晩御飯を御馳走になった。


「違うのよ……食べ物は父さんも一緒だったじゃない。母さんは母さんの物が欲しかったの。」

なんだその理屈は。


「おばさん、可愛らしいな……そこまで言うなら、誕生日には二郎と折半してエルメスの鞄を買うよ!」

七生にはおねだりは可愛らしいのか……若者の感覚が分からない。


「約束よ!母さん良い息子達を持って幸せだわ〜。」

いつの間にか、母さんが順応している……。
七生の母親代わりみたいなものだからか、二人が何か通じ合うものがあるのか……。


「父さん……、俺、本当は甘えたかったんだ。でも、今は大人になって働くって意味を知ったし、三人の子供に大学卒業させてくれた父さんを尊敬してるよ。」

長男で病弱な太郎と末っ子で長女の麻美で手一杯だったせいで二郎には殆ど構ってやれなかった。


「……二郎……」

しまった、
子供を嫁に出す父親の心境になってきた。


「七生が甘えさせてくれるからもういいんだ。」

そう言われると寂しくもある。


「いいじゃん、甘えても。動物園連れてってもらおうよ。」

この図々しさ、内館の血だよな……、でも心の代弁者でもある。
だからなのか、息子のように可愛くもある。

そして母さんと七生には上手く丸め込まれた気がする。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫