《MUMEI》

しばらくストレッチをしながら試合を観察していると、
倉木先輩が俺と同じようにジョギングしながらこちらへやって来た。


「緊張してるか?」


そしてストレッチをしながら尋ねてくる。


「まあ……。」


俺はそう答えるだけで精一杯だった。


緊張で体が硬い。


ストレッチも実は思うようにいかなかった。


「まあ…緊張するよな。」


先輩はそんな俺の姿を見て苦笑した。


「先輩は緊張して無いんすか?」


「俺?

緊張してるけど?」


うそや……。


本気でそう思った。


緊張した奴が、
悠々と鼻歌を歌いながらストレッチするかいな!?


「どう見てもリラックスしてるとしか見えない…。」


「そうか?」


世界レベルの大会で皆ガチガチに緊張しているのに……。


俺はまた、
いつの間にか先輩を尊敬の眼差しで見ていた。

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