《MUMEI》

って、ぼ〜としてる場合じゃない!

「本当にゴメンなさい。大丈夫?」

わたしは立ち上がって、男の子に手を差し出した。

「うん、ありがとう」

男の子はわたしの手を握って、立ち上がった。

…スベスベしてるなぁ、最近の子供の手って。

……それともわたしの手が、お菓子作りで荒れてるだけ?

ちょっと落ち込み気味になりそうだった時、男の子は屈んで何かを拾い上げた。

「コレ、おねーさんの?」

「へっ? あっ!」

男の子が持っていたのは、パンプキンクッキーだった。

どうやらぶつかったショックで、落としてしまったらしい。

「うん、そうなの」

「へぇ。手作り?」

「うっうん」

男の子はクッキーをじっと見たまま、動かない。

こっこれはもしかしなくても…!

「たっ食べたいの? クッキー」

「うん!」

男の子は眩しい笑顔を浮かばせた。

「でもそれ、わたしが作ったのだし…」

「でもおねーさん、裏口から出て来たってことは、このお店の人なんでしょう?」

「まあね。でもまだ半人前だし…」

「でも美味しそうだよ」

…さっきから、『でも』の繰り返しが激しいなぁ。

お互いに譲らないものだから。

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