《MUMEI》
水着を賭ける
それからというもの、仙春美が真剣勝負を迫れば、皆逃げた。
生放送でも、若い女性でも、容赦ない。こうなると一か八かの賭けに出る女性タレントはいなかった。
ほかの催眠術師から「邪道」とクレームをつけられても右から左。仙春美はバスルーム催眠術というスリリングな技で、人々の野次馬根性を刺激し、注目されていった。
批判したくても真剣勝負を挑まれたら困るので、皆口を閉じた。
怪しいとは思っても、万が一本当の催眠術だったらアウトなので、皆表立っては批判しない。
勢いに乗る仙春美は、石谷淳と一緒に海水浴場へ行った。
真夏の海は賑わっていた。太陽が眩しい。石谷はTシャツに短パンというスタイルだが、仙春美は海に不似合いな、煌びやかな衣装を身に纏い、ゆっくり歩いている。
後ろからカメラが付いてくるので、皆はテレビ番組だとすぐわかる。
石谷淳が二人の水着ギャルに話しかけた。
「君たち。催眠術って信じる?」
「えー。でもさあ、急にゴリラになっちゃうのは変だよ」
「無理あるよね」
そこへ仙春美が氷の微笑で割って入った。
「じゃあ、あなたたち、私の催眠術もかからないわね?」
彼女たちは慌てて下がった。
「ややや、ダメですよかけちゃ」
「あれ、君たち催眠術は信じてないんでしょ?」石谷も笑顔で迫る。
「途中でやめてくれるならいいけど」
「あまーい。負けたら素っ裸だよ」
「冗談じゃない」
二人は笑いながら逃げた。
いつの間にか人が大勢集まっている。智文も家でテレビを見ていた。
石谷淳が皆に向かって手を上げる。
「この中で、仙春美先生と真剣勝負をしてもいいという人?」
「はい!」
「お父さんは黙ってて。お父さんの裸はだれも見たくないから」
本人も爆笑しているので皆も笑った。
女子限定となると、さすがに手を上げる女性はいない。
あちこちで「容赦なく全裸にする」と言いきっている仙春美だ。海水浴場という大衆の面前で赤っ恥をかかされたら、たまらない。
しかしそのとき。
セクシーな水色のビキニを着た若い女性が歩いて来て、仙春美を指差した。
「その人の催眠術はヤラセですよ」
ざわめきが起こる。テレビの前で智文は驚いていた。
「美果。何やってんだ、あの子?」
石谷も急なことに焦ったが、すぐに笑顔で応対した。
「おっ、かわいい!」
「ありがとうございます」美果は嬉しそうな顔をする。
「いきなり挑戦状を叩きつけて。でも負けちゃったらヤバいでしょ?」
「負けませんよ。インチキだもん」
仙春美は真顔で美果の前に出た。
「あなた。若い娘だからって甘えは許されないのよ。わかる?」
「もちろん。水着を賭ける覚悟はありますよ」余裕の笑み。
「負けたら素っ裸よ」
「やれるものならね」
自信満々の水着ギャル。無謀な挑戦か。根拠があるのか。全く見抜けない。仙春美の額に汗が滲んだ。

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