《MUMEI》

.


そのとき、



由紀が、思い出したように、あっ!!と声をあげた。


「早く帰らねーと!!用事あるんだよねー」


ホラ行くぞ☆と、わたしに声をかけて、腕を引っ張る。


「え…ちょっと、いいの?」


わたしは困惑して、由紀の顔とカナちゃんの顔を見比べた。

カナちゃんはわたしたちの背中に向けて、待ちなさいよッ!と、怒鳴った。


「まだ、話は終わってないわッ!!羽柴君てばッ!!」


由紀はカナちゃんから逃げるように、わたしの腕を取ったまま、いきなり走り出す。

グイグイと引っ張られるような体勢で、わたしも、彼の後ろから駆け出した。


由紀の背中を見つめながら、走りつづけるわたしのあとを、


「待ってよ、羽柴君!!」


切なげなカナちゃんの声だけが、ずっと、追いかけてきていた。





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