《MUMEI》

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すると、由紀はわたしの背後から近寄り、下駄箱に手をついて、わたしがそこから動けないように阻む。

顔をあげると、険しい目つきをしながら、由紀がわたしを見つめていた。


「なに?」


邪魔なんだけど、と続けるまえに、

由紀が静かに言った。


「…『誰』と比べてんの?」



………『誰』と?



わたしはゆるりと瞬く。

不意に浮かんできた、懐かしい男の顔。

明るく笑った顔。シニカルに口元を歪めた顔。

そして、不機嫌そうに眉をひそめた、


−−−あの、顔。


必死に打ち消しながら、わたしは唸るように言う。


「なんのこと?」


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