《MUMEI》
生放送
カメラは回っている。流れは止められない。石谷淳は、仙春美に聞いた。
「いきなり挑戦状を叩きつけられてしまいましたが、どうします?」
「世間知らずのお嬢さんだから、今回だけは許してあげましょう」
「逃げるんですか?」美果が挑発する。
「何ですって?」
二人は睨み合った。
「どうします?」石谷淳が小声で聞く。
「小さな声で打ち合わせはやめましょう!」
美果が明るい笑顔で大きい声を出す。仙春美と石谷淳は、いよいよ焦った。
「仕方ない。やりましょう」
「やるんですか?」
心配顔の石谷を無視し、仙春美は美果に近づいた。
「あなたは段々眠くなあるう。眠くなあるう」
美果は目を閉じた。皆はじっと二人に注目している。
「ここはシャワールームです。体についた砂を洗い流しましょう」
美果は両手を後ろへやると、ブラの紐をほどこうとした。
テレビの前で智文は慌てた。
「ヤバい。美果チャン…」
美果は突然目を開けると、笑った。
「なーんてね。かかるわけないでしょ」
安堵と残念がるため息が交じる。仙春美は笑みを浮かべると、言った。
「たまにいるのよね。あなたのような意志の強い人が」
「意志が強いとかかりにくいんですか?」石谷がこの場を繕う。
「そうね」
「そんなことないわ。催眠術はちゃんと実在するから。つまり、本物の催眠術師はいるっていうこと。でもあなたのはインチキ」
美果の言葉に、仙春美は怒った。
「負けは認めるわ。でも言葉が過ぎると許さないわよ。小娘さん」
美果は笑顔で仙春美を睨むと、両手を出した。
「そういうこと言うならねえ、あたしも意地悪しちゃうよ」
美果は容赦なく仙春美の首根っこと額を手で掴むと、グイッと力を入れた。
「ちょっと、何を、あっ……」
「はい。催眠術かかった」
「え?」石谷淳も蒼白。
仙春美は目を閉じたまま、様子が変だ。美果は質問を始める。
「この人の裸を見たいっていう人はいないだろうから、あたしの質問に正直に答えなさい。あなたの催眠術はインチキですね?」
「はい」仙春美は目を閉じながら答えた。
皆は、見てはいけないものを見ている気がして、硬直していた。
「今まで催眠術にかかった女性はヤラセですね?」
「はい」
智文は顔が曇る。
「まずいよ美果」
石谷淳がたまらず止めた。
「もうやめましょう」
「あなたもグル?」
「冗談きついよお姉さん。早く解いてあげて」
美果は仕方なく石谷淳は許し、仙春美の首根っこと額を手で掴むと、パンと両手を叩いた。
「ハッ…」
仙春美は目を開けたが、状況が掴めていない。
美果は両手でチョキをつくると、石谷に言った。
「まあ、まずいところは適当にカットして」
「あの、これ生放送なんですけど」石谷は真顔で答える。
「嘘、収録じゃないの?」美果は走って逃げた。「ごめんね!」
「ああ、ちょっと待って」
「逆恨みはなしよ!」
美果はどこかへ行ってしまった。皆は唖然。智文は顔をしかめると、腕組みした。

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