《MUMEI》 . 嫌な予感がして、わたしはタクシーを凝視する。 不躾な視線を送るわたしの目の前で、 タクシーの自動ドアが開き、 その中に乗っているひとを見て、 ………やっぱり。 うんざりした。 タクシーの後部座席には、 ニット帽を目深にかぶり、このまえとは違うサングラスをかけている男がひとり、こちらを見つめて座っていた。 襟足からのぞく、キャラメルブラウンの髪の毛。長身でしなやかな体躯。唯一、はっきり見える唇は、不機嫌そうにへの字に曲がっている。 顔は見えないが、間違いなく、その男が【北條 廉】であると、わたしは確信する。 . 前へ |次へ |
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