《MUMEI》
魔法剥奪
美果が帰ってくると、智文は怖い顔で言った。
「美果。きょうの放送見てたよ」
「夏希チャンの?」
「とぼけんなよ。あれはやり過ぎだよ」
「あたしもそう思う」
「じゃあ、何であんなことしたの?」
詰め寄る智文に、美果はムッとした。
「どっちの味方なの?」
「そういう問題じゃないでしょ」
「反省してるんだからもう責めないで」
真剣な表情で智文を直視したかと思うと、突然服を脱ぎ捨てて水着姿になった。
「何やってるんだよ」智文は目をそらせたり見たり忙しい。
「シャワーも浴びずに逃げて来たんだから。シャワー浴びるね」
美果は逃げるようにバスルームに入った。
「いい体してるなあ…って違う違う違う」
有名人の仙春美に、掟破りの逆催眠術をかけて打ち負かした謎の水着ギャル。
こんな事件をテレビがそのままにしておくはずがない。
智文は緊張して窓の外を見た。マスコミらしき人間はいない。
魔法の乱用は社会に混乱を招く。智文は気合いを入れて美果が出るのを待った。
「ふう、あじー」
美果はバスタオル一枚の姿で出てきた。智文はエキサイトしたが、とりあえず理性を保ち、美果に言った。
「美果。もう怒らないから約束してほしい。二度と魔法を乱用しないと」
美果はすました顔でベッドに腰をかけた。
「わかったわ。約束します」
素直に承知されると、それ以上は何も言えない。
「大騒動にならなければいいけど」
「なったら司君助けてね」
美果がキュートなスマイルを向けると、智文は背を向けた。
「オレもビール飲む前にシャワー浴びよう」
「何、夏希チャンの笑顔以外はいらないって?」
智文も逃げるようにバスルームに入った。なぜ夏希に対抗意識を燃やすのか。智文には今いちわからなかった。
美果はベッドに大の字になる。
「夏希のことしか頭にないんだから」
そのとき。レインボーの光とともに、マントを着た中年の女性が、突如として現れた。
美果は跳ね起きる。
「お母さん!」
「美果」
厳しい表情。美果は緊張して赤い顔をしたが、笑顔でとぼけた。
「どうしたの、急に?」
「人間界はどう?」
「複雑ね」
「そう」母は氷の微笑を向ける。「魔法は乱用してない?」
美果は観念して俯いた。
「深く反省しています」
「あの行為は必要だったの?」
「行き過ぎでした」
「そうね。では、罰として一週間。魔法を使えないようにします」
美果は慌てて立ち上がると、両手で母のマントを掴んだ。
「待ってお母さん。それだけは許して、お願いだから」
「あなたの修行の一端よ」
「無理無理無理」
「魔法を使わないで生活してみなさい」
美果は必死に訴えた。
「彼、結構エッチだよ。あたし犯されちゃうよ。いいの?」
「それも魔法を使わずに回避しなさい」
「無理だって。母上様。今回だけは許してください。これから気をつけますから」
「一週間。頑張ってみなさい」
そう言うと、母は七色の光とともに、姿を消した。
「嘘でしょ?」
美果は手にバトンを出してみた。出ない。顔面蒼白だ。
「どうしよう?」
美果はおなかに手を当てて、バスルームのほうを見た。

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