《MUMEI》 「アンタは楽しんでいるだけでしょうがっ!」 「うん、それもある。でもそれもキミが言ったことでしょう? 『自分で人生を楽しめ』って」 「うっ…!」 くらっと目眩がする。 するとつい一ヶ月前のことが、走馬灯のように思い出せた。 一ヶ月前。 アタシは部活で遅くなって、とうに下校時刻が過ぎた後に帰りのバスに乗った。 学校から駅までのバスには、アタシと運転手、それに彼の3人しかいなかった。 彼には迎えの車が来る時と、こうやって帰る時があることを、何度か目撃して知っていた。 同じクラスで、周囲からは王子様扱いされている彼のことは、イヤでも意識に残っていた。 だけど断言できる。 恋愛感情では無かった! だから彼と一緒にいることは、正直居心地が悪かった。 平凡な自分とは、まるで別世界にいるような人間だから…。 彼はぼんやりと外の景色を見ていた。 だからアタシは何気なく、彼を見ていた。 彼の顔はキライじゃないから…。 けれどいきなり、彼はアタシの方に視線を向けてきた。 だから慌ててそらしたら…。 キキィーっ! グラッと体が前のめりになった…と思った瞬間、意識を失った。 …しばらくして目が覚めた。 その時、ようやく自分の置かれている状況に気付いた。 バスが…事故った。 バスの中はひどく歪んでいて、アタシはイスの下に倒れこんだから、無傷だった。 でも運転手の人や、彼は!? 前へ |次へ |
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